2020年9月に発売されたインディーゲーム"Going Under"のレビュー
Going Underは、シアトルに拠点を置くインディーデベロッパー"Aggro Crab"が制作したダンジョンクローラー型アクションゲームだ。
ランダム生成のダンジョンをスキルやアイテムを拾いながら潜っていくローグライクに 繰り返し遊ぶことで基礎能力を強化する"ローグライト"の要素が足されている。
企業や現代社会を風刺した無駄にリアルな世界観と 丸々とした現代的なグラフィックが特徴的で、私が2020年に遊んだゲームの中では一番好きな作品だ。
発売からレビューするのが遅れてしまったが、2021年1月に大型アップデートが来ているので 今回はそれも含めて解説・レビューしていく。
舞台は希望に溢れる近未来都市ネオ・カスカディア
太平洋岸北西部にあるネオ・カスカディアは数々の企業ビルが並ぶ美しい街。
その中心には「電子商取引、機械学習、宅配業」を扱う超巨大企業Cubicleの1000階にもなるビルがそびえ立っている。
街のモデルはシアトル、CubicleはAmaz○nがモデルだろうか。
そのCubicleは恩返しと称して将来性のあるスタートアップ企業を次々と買収しており、子会社はビルの中に次々と収容されていっている。
この街のベンチャーにとってCubicleに買収されることは莫大な予算や最新技術を手に入れるチャンスであり、ある種のステータスでもあるのだろう。
そして主人公ジャッキーはCubicleの総合AIによって、今最も熱い企業Fizzleビバレッジに無給インターンとして配属される。Fizzleは食事代わりにもなる炭酸飲料で、その革新的なアイデアからCubicleに吸収されたばかりだ。
可愛らしい見た目に反して 現代社会を風刺したブラックな世界
大学でマーケティングを学んだジャッキーに上司マーヴが下した最初の指令は
「地下から現れたゴブリンを殺せ」
何だそりゃと思うかもしれないが、Going Underの世界では 事業に失敗した企業は呪われてしまい、従業員はモンスターと化してしまうのだ。それでも企業の設立者や従業員たちは理想に囚われ、今なお地下で働き続けている。


とりあえず目の前の敵をそのへんにあるキーボードやモップを使って叩きのめすがこれだけでは終わらない。さらに地下モンスターの駆除を命令され、嫌がるジャッキーに上司は「やる気がないなら今後に響くぞ」ということをやんわりと伝え、強引に従わせてしまう。
しばらく遊んでいると この物語のブラックな部分が浮かび上がってくる。
世界が巨大企業やAIに翻弄され、ジャッキーは初日からいきなりパワハラをくらうし、Fizzleの社員たちは曲者ばかりで連携がとれていない。
このカラフルなデザイン、丸々とした可愛らしいキャラクターに対して、妙に現実的で風刺のきいた世界観というギャップが本作をよりシュールかつユニークにしている。
ジャッキーはマーケティングをさせてもらえると思っていたが、気がつけば武器を持ち、その顔は血に染まっていた。憧れの仕事を掴むため、ジャッキーは上司に言われるまま地下のダンジョンへと単身殴り込みにいくのである。
こんなブラックな世界でジャッキーはちゃんと仕事に就けるのか心配だ。
やりごたえのある高難易度アクション
いろいろ書いたもののやることは "ダンジョンを潜って最深部にいるボスを倒す"だけなのだが、本作はアクションゲームとしての難易度が高く、ボタン連打などゴリ押しでプレイしていると瞬殺されてしまう。見た目に対してギャップがあるのは世界観だけではない。
なんでも武器にして戦う主人公
残念なことにジャッキーは毎回、武器も何も持たずにダンジョンに飛び込んでしまうため 各ダンジョンに落ちているものを武器として使うことになる。
会社の中には様々な道具が落ちている。剣、槍、棍棒、弓矢といったオーソドックスな武器から 椅子や冷蔵庫といった家具、場合によっては ダンボール、ゴミ箱、パソコン、モップ、ホッチキス、バランスボール、水鉄砲、分度器、タブレットペン、ギター 等々…… とりあえず手に持って運べるサイズのものはなんでも拾える。


どの武器も威力や攻撃速度など性能が異なり、それぞれの特徴を覚えれば次の戦いに活かすことができる。プレイヤーによっては素早い攻撃と大振りの攻撃で好みが分かれるところ。
そして武器は使い続けると壊れてしまうため、プレイヤーは新しい武器を探しながら戦闘を熟さなくてはならない。とにかく強い武器を使って体力を失わないようにしたり、お気に入りの武器を使わないようにしてあとの戦いに持ち越したりと戦略性は幅広い。
スキルとアプリを使いこなし、メンターにも頼ってしまおう
ダンジョンの中にはスキルが置いてある部屋やショップがあるので、それを入手することでジャッキーは強化されていく。スキルは使い込むと熟練度が上昇し、ピン留め(スキルを一つだけ持ち込み)できるようになる。
また一部のスキルはジャッキーの見た目に大きく変化を与える。身体のサイズが大きくなったり、逆に小さくなったり、頭に帽子を被ったり…ダンジョン終盤になってくるとジャッキーは異形の者と化す。
ダンジョン内にはアプリが落ちていることもある。これは消費アイテムの一種で、地図・クーポン・ヘルスケアなど身近なものから、ゲーム内企業のアプリも使える。
使いこなせればダンジョン攻略に大きく役立つだろう。
またFizzleの社員はジャッキーにミッションを与えることがあり、そのミッションを達成すると社員はジャッキーのメンター(仕事上の指導者)になってくれる。
これはダンジョン攻略に非常に役立つ装備品で、社員たちがそれぞれ得意な分野でジャッキーをお助けしてくれるのだ。
遊び方の異なる企業ダンジョン
挑戦できる呪われたスタートアップ企業は「Joblin」「Winkydink」「Styxcoin」の3社。どれも現実にあるものをモデルにしており、ダンジョンの構造にも影響している。



最初に挑むことになる企業「Joblin」は単発の仕事を受注できるギグエコノミーサービスがモデルで、ダンジョンに入るとドライバーやフリーランサーなど様々な職種のゴブリンが現れる。また至る所にコーヒーが置いてあり、ゴブリンたちの労働環境が何となく察せられる。
マッチングアプリサービス「Winkydink」では出会いを求めるサキュバス・インキュバス、スライム達が待ち構えている。ここでも現実と同じくイケてる奴とイケてない奴の間に大きな壁があり、出会い系特有の闇が漂っている。あと窓とかいろんなところに艶めかしいモチーフが隠れている。
最後に、仮想通貨サービス「Styxcoin」。ここは3社の中では特に洒落が効いたステージで骸骨の鉱夫たちが仮想通貨を"マイニング"しており、至るところに"ブロック"が"チェーン"に繋がれてぶら下がっている。戦闘で手に入るのも仮想通貨で、相場を見ながら現金に換金しなければならない。
奥深いダンジョン探索
このように魅力的な世界観を持っている本作だが、何度も繰り返し遊んでいるうちにゲームとしてもよくできていると強く感じた。
まずゲームシステムの奥深さだ。
ダンジョン内に落ちているアイテムには"属性"があり、電化製品で攻撃すると相手は感電し、可燃性のアイテムを火に近づけると引火、そのまま放置すると灰になる。火は水属性の武器で鎮火することもできる等 アイテム間で細かい相互作用が働いている。
これを利用して敵を攻撃したりもできる他、ダンジョンに落ちている回復アイテムの"サンドウィッチ"を火でトーストすることで回復量を上昇させるなど応用することも可能。
これ以外にもダンジョン内には様々な隠された要素があり、それを発見することも本作の面白さの一つだ。
「これを使えばあんなことができるんじゃないか」「このスキルにはこんな使い方があるんじゃないか?」など…詳しいことは割愛するが前述のトーストも含む隠された要素の存在はゲーム内ではこれといって説明されない。繰り返し遊ぶ中で"自分で考え、見つける"ことが重要なのだと分かった時、その奥深さに心底感服した。
賛否両論・残念な点
遊べば遊ぶほど ヌルくなっていく
高難易度だが何度も遊ぶことでスキルの持ち込みが可能になり、ボスを倒すことで最大体力が増加、さらにFizzle社員たちと仲良くなると攻略を手助けしてくれる。
これは俗にローグライトと呼ばれているものの特徴だが、要は繰り返し遊ぶことでゲームの難易度がどんどん下がっていくのだ。”ローグライク”が知識を蓄え、腕前を鍛えていくのに対し、”ローグライト”は能力強化という救済も与えているため 1回目のプレイと14回目のプレイでは状況がまるで違ってしまう。


もちろんプレイヤーの腕前によって印象が異なるため一概に良い悪いを決めることはできない。筆者はアクションゲームが得意だったため、遊び続けるほど「やられるかもしれない」という緊張感は薄まっているように感じた。
※ただし後述する大型アップデートで追加されたローグライクモードは別
このへんについてはGame Maker's Toolkitの動画(字幕付)を参照いただきたい。
なんでも拾えるけどなんでも拾うわけじゃない
次に最大の特徴である『なんでも拾って戦う』という部分が 思ったより戦闘を豊かにできていないように思えた。
確かにダンジョン内には剣や棍棒といった武器らしいものから、タブレットペンのような仕事道具、モップなどの掃除用品、イス、冷蔵庫、割れたビン、ゴミ箱等…色々落ちていて それらを自由に拾って戦うことができる。
しかし、イスやゴミ箱など武器の形をしていないものは "攻撃モーションが遅い"、"当たり判定が小さい"、"攻撃力が低い"、"壊れやすい" といった何らかの扱いづらい特徴を持っていて その結果 ゲームに慣れてくると、自然と剣のような扱いやすい武器しか拾わなくなる。
ゲームデザインやバランスの関係上仕方のないことではあるが、バリエーション豊かな武器があるのに実際に使われるのはその中の数種類で、ガラクタは武器が落ちていない時に仕方なく使う…というのは 少々悲しい気がした。一応「特定の武器を強くするスキル」が存在するので、それでプレイスタイルに変化をつけることもできるのがせめてもの救いか。
大型アップデートがきた!!!
ストーリーで遊べるダンジョンは3つ+α 。物語としては変に間延びするより あっさりしてて良いのだが ゲームとしてはやりこみ要素が少ないのもあり、どこか物足りなく感じていた。
2021年に入り大型アップデート"The Working From Home Update" が登場。
このアップデートでは新スキル・新武器の追加に加えて
自宅で音楽を聴いたり服を着替えたりできる「リモートワーク」、
プリンター紙を投げつけて相手の名刺を手に入れる「収集要素」、
ジャッキーの内なる闇が出現する「インポスターモード」が実装された。


最後のインポスターモードは今まで遊んだ3つのダンジョンを連続でクリアするローグライクモードで、本編と違い体力増加やスキル持ち込みといった強化が一切ない無力な状態で挑むことになる。
しかもこのモード、クリアするごとに「敵が強くなる」「呪いがつく」などの残業デバフをかけて再挑戦できる鬼畜やりこみ仕様で本編とは比べ物にならない難易度になっている。
筆者は一応最後までクリアしたが、後半は発狂せざるを得なかった。
そしてこのアップデートの後、4つ目のダンジョンが追加される予定だったのだが…
Bad news and good news
— AGGRO CRAB (@AggroCrabGames) 2021年2月24日
The future of Aggro Crab: pic.twitter.com/sekdPFtVng
"Going Under didn't make enough money" - Avie
"Going Under は 十分な収益をあげられませんでした"
売上が伸び悩んだことで アップデートの計画は取り消し、Aggro crabは新作ゲームのプロジェクトに取り掛かることとなった。
😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
皮肉にもGoing Underらしい終わり方であった。次回作に期待したい。
最後に
普段より長々と書いたが、GOING UNDERは皆にオススメできる良作だ。
その秀逸なデザインセンスは ちょっとした粗を十分に補う魅力を持っている。
そして前述のアプデにより、ユニークなスキルや武器・隠し要素そしてクリア後のやりこみ要素が追加されたことで 新しく遊ぶ人も少し遊んでやめていた人も満足できるボリュームになった。
特にオススメしたいのは 普段アクションゲームをやらない人、アクションに苦手意識を感じている人だ。本作はやり込むほど遊びやすくなる仕様であり、最終手段のアシストモードも備えてあるので このデザインにビビッときたなら 間違いなく買いである。
評価:★★★★☆ 良作、秀逸なデザイン
筆者の総プレイ時間: 83時間~(記事執筆時点)